2019.12.1定例会(裏)


今回の定例会では今年で小動物臨床獣医師を引退された中川先生より「私の轍 獣医師として歩んだ55年を振り返って」という題で講演がありました。

講演では社会と動物と獣医師の関係性についてお話がありました。

戦争時には軍馬を診察する獣医師が必要とされ、終戦後は狂犬病予防員としての獣医師、食生活の変化に伴い畜産動物の獣医師、公害や食中毒が増えると公衆衛生の獣医師、そして時代のニーズと共に変わる小動物獣医師(番犬→ステータスとしての大型犬→集合住宅でも飼育できる小型犬→家族としての犬や猫)。

このお話から現在の獣医師が抱える問題と、令和時代のあるべき獣医師像について考えさせられました。

また、中川先生の生い立ちからのお話もありました。

戦争や大病に振り回された幼少期。小動物の獣医師を目指すようになった青年期。小動物臨床の講座がほとんどない時代に、米軍キャンプの動物病院で知力をつけた大学時代。食べていくための仕事ととしての獣医師ではなく、動物の生命を守り社会に貢献して獣医師の存在意義を高め続けた開業医時代。
それぞれの時代で遭遇した困難や壁を知恵と努力と男気で乗り越えられてきた、中川先生の人間力を感じさせるエピソードが多くありました。
その中でも特に印象深いエピソードがありました。
日米の獣医師が集まる症例検討会において「機能性イレウスを発症した腸管リンパ肉腫」という発表をされたそうです。発表内容について日本の大学人からは否定的な意見が出されたそうですが、米国獣医師からは「間違いのない診断だ」と適切な評価を受けたそうです。聴衆の100人を超える日本人臨床獣医師からは大きな拍手を頂いたそうです。

このエピソード聞いた時に、拍手喝采の中で興奮と満足感で顔を紅潮させつつも冷静に振る舞う中川先生を思い浮かべました。そして日々の診療で間違いのない診断をする努力を続けているからこそ、大一番で力を発揮できるのだとも思いました。

小動物臨床を引退後の中川先生は、刺激のない毎日が退屈で虚無感すら覚えているそうです。死に関することもお話頂き「死とともに己の存在の終焉と考えたくない気持ち」をお持ちだそうです。この言葉から肯定的な意思を感じ取りましたので、死に関して何を見出していくのか、そして我々に何を伝えてくれるのか、楽しみに感じています。

我々も中川先生の弛まない生き方に負けぬよう精進していかなければならない、と強く思わさせて頂いた講演でした。(武田)


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